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ササ
下北半島に自生するイネ科ササ属は、すこし乱暴だけれど、チシマザサとクマイザサの2種に大別できる。チシマザサは主に標高300m以上のブナ帯の林床に群生するのに対して、クマイザサは標高の低い地域や里山に多く、人の暮らしの中でよく目に止まる。
下北半島の北部に生息するサルは、里山から深山まで遊動域が広いため、チシマザサもクマイザサも季節に応しべて食べているが、南西部のサルは、里山や海岸線で暮らしているため、チシマザサの大群落はなく、もっぱらクマイザサを利用している。
春から夏にかけて、サルはササの先端部の尖った新葉をよく食べる。それも先端部を引き抜き、基部の淡い薄緑色の部分を一口二口と食べるだけで、残された大部分は捨ててしまう。何とも贅沢な食べ方だが、ササの量も多く、みずみずしい柔らかな部位だけに固執する。
この先端部の食べ方に北部と南西部のサルの違いを発見した。北部の場合、チシマザサの先端部を引きぬくにはかなりの力が必要で、サルには引き抜きにくい。そこで、彼らは先端部のすぐ下の葉をバリバリと下に剥ぎ、抜き取りやすくする。当然、採食後にこの痕が無残な姿で残る。それに反して、南西部のサルが食べるクマイザサの先端部は、ヒョイヒョイと子ザルの力でも簡単に引き抜くことができる。ただし、その痕はわかりにくく、食痕と判断するには観察眼が必要となる。
チシマザサのたけのこは、サルだけでなくツキノワグマも大好物、人も「ねまがり」と呼び初夏の山の幸として重宝がられる。この3者が山深い森でばったりと出くわす機会もそう珍しくない。
冬季のササの利用は、葉と脇芽に限られる。一枚の葉を丁寧に折りたたみ食べる姿は、食に対するこだわりのようにも見れる。その食いちぎられた痕をカモシカの食痕と間違えたこともあった。脇芽は、移動の最中にまるでつまみ食いのように食べ歩く。サルの冬季の食べ物の中で、ササは緑が得られる重要な食材の一つと云えよう。
文章・写真 松岡 史朗