夏です。暑い暑い日本列島の夏。ここ数年、暖冬冷夏が続く北国ですが、それでも7月中旬から8月の上旬にかけての数週間は、気温が30度を越える日も続き、蒸し暑い日本の夏を感じられます。北国ですら、暑さに閉口してしまう日々ですが、皆さん、いかがお過ごしですか? 冷房も冷蔵庫もないニホンザルの暮らし、彼等は、一体どうやって夏の暑さをしのいでいるのでしょう。

ジリジリとした真昼の炎天下、下北の森にこだまするセミの大合唱。そんな北国の森で、サルの群れは動きを止めます。照り輝く緑の森の中、重なり合う広葉樹の葉が直射日光を遮り、薄暗くひんやりとした谷間に踏みこんでみると、そこは別天地、涼しさが身にしみてきます。オスもメスも、若者も年寄りも、コックリコックリと眠りにつきます。そう、昼寝です。あのうるさいぐらい賑やかなサルの群れに、鳴き声ひとつ聞こえません。じゃれ合う子ザルも見かけません。赤ん坊は、母ザルの胸で、乳をくわえたままトロンと眠ります。ごつごつとした岩の上や大きな切り株で、大の字になって眠るサル。ぐうたらな姿にも見えますが、なんとも気持ちよさそう、静かな静かなまどろみの時だけが流れていきます。

目をこすったり頭を抱える、ため息もつきますしあくびだってします。眠い時の信号は人もサルも同じです。いつまでも母ザルの胸の中で抱かれていたい子ザルもいることでしょうし、なかなか眠れなくて機嫌が悪くなるサルだっていることでしょう。仕事も学校もないサルの世界、一見、自由で気楽なように思えますが、生と死という諸刃の日常では、グダァーとした怠惰な生活が猛暑を乗り切る最善の方法だったのです。

サルを観察する私たちにとって、暑さと同じくらい気が滅入ることに、アブの襲撃があります。10匹や20匹ではありません、獲っても獲っても、逃げても逃げても身体にまとわり、アブの塊の中に人がいるほど、集中力も根気も無くなってしまいます。ただ、人にとっては、もういい加減にしてくれ、といいたくなるアブですが、不思議なことにサルにはそれほど寄っていきません。もちろん、サルは、飛んでくるアブをヒョイと手で掴み取り食べてしまいます。まさか、アブが食べられることを嫌い、サルに近づかないとは思えません。サル以上に私たち人が、炭酸ガスや熱を発散させているからでしょう。アブ以外にも、ハチ・カ・ダニといった夏の虫との戦いが、夏のフィールドワークには課せられます。

早朝や夕方の涼しい時間帯に活動し、日中は動きを止めるサルたちの夏の暮らし。春夏秋冬、豊かで変化に富んだ日本列島の自然に逆らわず、無理をしない暮らし方をサルたちは選んだようです

文章・写真  松岡 史朗

イラスト  大西 治子