ヤマグワの実

ヤマグワ

 ニホンザルの生息の確認や遊動域を探るとき、ヤマグワほど役に立ち、頼りになる樹木はない。特に冬季、サルが齧り樹皮が剥がされた食べ痕は、樹肌が生々しく剥き出しになり無残極まりない姿となってしまうが、この誰が見てもサルの仕業だと判断できるフイールドサインから、多くの情報を読み取ることができるからだ。

ヤマグワの樹皮の食痕

初冬ようやく根雪になった頃、サルはヤマグワの冬芽食いに没頭する。幹から伸びる枝に互生につく冬芽、彼らは器用な手で摘み取るのではなく、顔を左右に振りながら一つ一つの冬芽を歯でもぎ取る。大人のサルは、太い幹に腰を据え、手の届く範囲のものから口に入れ、枝先の芽は手繰り寄せて食べる。体重の軽い子ザルは、細い枝先まで移動が可能、大人よりも食べる範囲は広がるが、枝先の冬芽は小さく軽い。

ヤマグワの冬芽にかじりつくサル

そんな冬芽食いが一通り終わり、本格的な冬の森になると、彼らは樹皮食いへと変わっていく。小指ぐらいの太さの小枝の樹皮を齧る。外皮とその内側の黄緑色の皮までが好みの部位、丸裸となった枝はポイッと捨ててしまう。この樹皮食いもかなり執着する。遊動を止め、3~4日ヤマグワの林に留まることも珍しくないほど。また、大人特に雄ザルは、人の腕ぐらいの太さの幹をガリガリと齧ることもしばしば、冬のサルの食べ物としてヤマグワは嗜好性の高い樹木なのだ。

ヤマグワの小枝を食べるサル

そして、この見事に食われた跡は冬枯れの森でよく目立ち、長い間無残な姿がいつまでも残る。経験を積むと、その状況が1頭によるものなのか、それとも複数なのかがわかるだけでなく、何回ぐらいそのヤマグワをサルが訪ねているかまでもが読み取ることができる。サルの調査において、ヤマグワを指標植物と呼ぶゆえんがここにある。

文章・写真   松岡 史朗