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エゾニュウ
サルを求めて森に入る。もちろん、彼らの姿を目撃できれば言うことはないが、そうは簡単には発見できない。そんな時、道路上に無残に食い散らかされたエゾニュウを見つけると、一人にんまりとしてしまう。サルなどに関心のない人には、目にもとまらないだろうが、この散在しているエゾニュウが新しければ新しいほど私のこころはときめく。すぐ近くにお目当てのサルがいるからだ。食痕を見慣れてくると、いつごろ、1頭か多数か、その後どの方向へ移動したかなど、有力なサル情報を得ることができるが、正確に読み取るまでには経験が必要となる。
初夏、沢沿いや湿気の多い草地に、エゾニュウが生い茂る。サルは、切れこみのある大きな葉ではなく、太い茎に執着する。なるほどみずみずしく水分に富んだ茎は、暑い季節にはもってこいの食材と感心し、私も茎を齧ってみた。何と、渋い、苦い、いやえぐい。すぐに口から吐き出した。水分はあるが、繊維質が強く、味が強烈で、とうてい私の食には適さなかった。エゾニュウと近種のアシタバの若葉は伊豆七島の特産だが、エゾニュウに同じような利用価値は見られない。
エゾニュウに限らず、人の味覚に合わないものでもサルは平気で食べる。人が食べられないからと言って、サルも食べるはずがないと思い込む事は、浅はかなことだ。人の味覚で、サルの食は語れないからだ。むしろ、サルの食の幅広さを知り、人との相違点を認め、彼らの暮らしを語るべきだろう。
下北地方には、エゾニュウを含めセリ科シシウド属は、シシウドとアマニュウなどが自生している。どれも花火のような複散形花序の白い花が特徴だが、サルの好物はあくまでも茎だけ。子ザルが茎を食いちぎり、手に持って走る姿は、うきうきとしていて、何とも微笑ましい。
文章・写真 松岡 史朗