わた雪、粉雪、ざらめ雪、気温によって変化する北国の雪。あたり一面、雪で覆われる下北半島の山々。寒い寒い冬がやってきました。サルたちは、一体どんな暮らしをしているのでしょう。

下北では、ここ数年暖冬が続いています。とはいっても、積雪は1メートル以上、山間部では2メートルを越えています。また、2001年の冬 (2000年12月から2001年の3月までの4カ月間) の脇野沢村の記録では、最低気温は-14.4℃(2001年1月14日)で、最高気温が氷点下以下の真冬日は44日間でした。また、シベリア降しと呼ばれる猛烈な北西風が吹き荒れ、体感気温をぐっと下げる日もありましたが、一日中、猛吹雪の悪天候の日は3~4日ほどで、全体的には穏やかな冬でした。

下北のサルに限らず雪国に暮らすサルには、厳しい冬を耐え忍んで生きているイメージがあります。木の冬芽や樹皮を齧る姿や、吹雪の中抱き合う様子から、サルたちが冬の生活をがまんしているというのです。私たち人に置き換えて想像してみれば、大変辛く困難な暮らしに違いありません。できる限り楽をして、のんびりと暮らすのが身上のサルたちです。本当に、我慢の暮らしなのでしょうか?

冬枯れの森に降る雪は、サルの食べ物を覆い隠してしまいます。それでも、時間をかけて丁寧に観察してみると、ツルウメモドキ・サルトリイバラ・ガマズミの赤色の果実、クズ・ツルマメの種子、ミツバアケビの萎びた葉、緑色のササの葉や脇芽、木の幹につくカワラダケなどのキノコと、白い森に溶け込み目立たないものの、サルの食べ物を見出すことができます。それに、針葉樹のマツの種子(マツボックリ)は好物のひとつ、時にはヒバやマツの葉さえも食べます。また、遊動域に海岸線があるサルでは、海岸で海藻や貝、野菜クズなどの漂着物も食べます。積雪量が増え本格的な冬となれば、木の冬芽や樹皮が主体となりますが、秋や春に比べ食べ物の種類や量は少ないものの、心配するほどでもないことがわかります。

「下北のサルは身体が大きいね」。日本各地でサルの観察をしている研究者の声です。実際、他の地方に暮らすサルと比べると、胸囲も広く体重も重く、大きな身体でころころとした体形をしています。南方のニホンザルは、メスのオトナの体重が8kg前後ですが、下北では10kg前後と2割以上の体重の差がみられます。『暖かい地方より寒い地方の動物の方が、身体が大きく、丸々とした体形になる』このベルグマンの法則にニホンザルも従うのでしょう。大きな身体の方が体温が奪われにくく寒冷地でも生きられる、というのです。こうした寒冷地適応の例は、クマやキツネ、シカにも見られます。

長く、細く、密生する下北のサルの体毛。体毛は哺乳動物の特長のひとつで、ひっかいたり、噛まれた時に身を守るほか、雪や雨などの寒さから、時には直射日光からも身を守っています。また、自分を美しく、たくましく見せる誇示の役目もあります。下北のサルの体毛、特に冬の毛は、風・雨・雪など北国の厳しい自然環境から身を守り、その保温機能の高さは、世界最北限のサルと呼ぶにふさわしい、ふさふさとした豊かな毛並みをしています。また、シルバーグレイの冬の毛が、9月から翌年の5月までの9カ月間と長期間であることも、雪国のサルならではの特長です。

立派な体格と豊かな体毛。ニホンザルが、下北半島で何千年も生き続け、何千回の冬を越してきた秘密がここにあるのです。春夏秋冬、四季の変化に恵まれた日本列島で生きるニホンザルには、厳しい環境になる冬の暮らしは避けることも変えることもできないのが現実です。むしろ、ニホンザルが下北をはじめ雪国の豊かな自然を充分に利用し、自然に合わせ、そして自然に抱かれて生き続ける力を持っている動物だからこそ、日本の厳しい冬を越せるのです。

文章・写真  松岡 史朗

イラスト  大西 治子