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ホオノキの花

 ホオノキ

白く大きな花、あたり一面に漂う甘い芳香。視覚からも臭覚からも際立つホオノキの花は、北国下北半島の森に初夏を告げる風物の代表格といえる。このホオノキ、実はサルが一年を通して、さまざまな部位を食料として利用する樹木の一つなのである。

冬、主にオトナのサルが地上部に近い幹をガリガリと齧り樹皮を食べる。白い木肌から生木がのぞくが、太さが人の腕ぐらいの幹を好む。また、長紡錘形の冬芽ももぎ取る。長さ5cmのナイフ状のもので、芽吹きのころまで食べる。

春から夏にかけて、大きな楕円形の葉に囲まれ、上向きに突き出る蕾に執着する。もう少しで、あの大輪の花が開くというのに・・・・・・とついつい惜しむほど。もちろんこの花も食べる。いや、食い散らかす。ただ、厚くて堅い大きな葉は、食べなくはないが、それほど執着はしない。

ホオノキの樹上のサルたち

紅葉の盛りから晩秋へと季節が流れる中で、いち早く落葉するのがホオノキ。冬枯れの枝先に長さが15cmぐらいの袋果が多数集まった黒く朽ちた感じの集合果が残る。袋果は熟すと、裂開し、アズキ大の紅色の種子が顔を出す。この種子にサルは目が無い。“ボキッ”地上20mを越える上空の枝先で、たぐり寄せ枝を折る音。袋果を抱え、中から種子をつまみ出し、ほお袋に詰め込む。枝先での作業は、かなりの力を必要とするのだろう。ベビーや1歳ぐらいの子ザルにはできない芸当。子ザルたちは枝先から落ちた袋果を落ち葉の中から探し出し拾い食いをする。小脇に抱えてスタスタと歩く様は、何とも可愛い。

ホオノキの実

サルにとって利用価値の高いホオノキは、コブシやモクレンと同じ仲間で、広く日本全国に自生する。材が柔らかく細工し易いことから下駄や版木として、また樹皮は漢方薬としても利用し、昔から私たち人の暮らしにも馴染が深い。

文章・写真  松岡 史朗