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カワラタケ
その昔、「マタンゴ」という映画があった。南国の無人島に漂流した人々が、巨大キノコ(マタンゴ)に次々と食べられ、あげくの果てに、そのマタンゴに変身してしまう、といったまさに人をくったホラー映画だった。当時、少年だった私にはその衝撃的な内容が影響したのか、以後キノコに対してあまり良い印象を持てなかった。そればかりではない。ベニテングダケなど猛毒のキノコも現実にあり、山育ちであるにもかかわらず、私にとってキノコは今でも縁遠いものになっている。
ところで、キノコを山の幸の一つにしているニホンザル。彼らは、キノコの毒性を如何に見極めているのだろうか?ブナの風倒木の幹に重なり合うツキヨタケ、ヒカリタケとも呼ぶ毒キノコだが、サルはこの肉厚のかさをつかみ取り匂いを嗅ぐ。しかし、関心を示すのもここまでで、決して口にすることはない。ポイッと捨ててしまうのだ。
サルは、地面から顔を出す地上のキノコよりも木の幹や枝に生えるキノコをよく食べる。さらに、生木よりも朽ちた幹に群生するものを、より好む傾向がみられる。また、キノコの季節を秋とするのは私たち人の暮らし、下北のサルではキノコは冬の食べ物に加わる。そして、その代表格がこのカワラタケである。
雪に覆われ色のない森で、サルたちは枯れ木にびっしりと群生する半円形のカワラタケを幹から剥ぎ取りガリガリと食べる。子ザルは雪上に食い散らかした破片を、まるでガムを噛むようにクチャクチャと食べる。見るからに堅そうで、美味そうには見えないが、カワラタケには制ガン作用があるといわれ、煎じて飲んでいる人もいると聞く。
文章・写真 松岡 史朗