中山 裕理

 北国の春は、冬が長いので夏に向かって駆け足です。マルバマンサクの花が咲き、カタクリ、トリカブトの葉が地面から顔を出し、フクジュソウの花が咲き始める頃からサルたちの日々のメニューもどんどん変わってゆきます。落葉し雪が降り始める頃からおよそ4カ月、主な食べ物は毎日落葉樹の冬芽と樹皮、同じようなメニューだったのですから、サルたちにとってはうれしい季節に違いない、と私は思っています。
カタクリ、ニリンソウ、キバナイカリソウ、エンレイソウと次々咲く花も楽しみですが、シドケ(モミジガサ)、アイコ(ミヤマイラクサ)、ミツバ、タランボ、コゴミ(クサソテツ)、アイヌネギ(ギョウジャニンニク)などの山菜もこの季節ならでは楽しみです。

私たちの好きな山菜とこの季節にサルたちがよく食べる植物とは必ずしも一致しないところが面白いところです。コゴミもシドケも全く食べません。様々な植物の新芽が次々と出てくるのですが、サルたちは手あたり次第食べているわけではなく、多くの種からかなり選択して食べています。そして食べる部位にもこだわりがあるようです。

ハリギリという巨木に成長する木があります。その名の通り枝や若い木の幹には鋭いとげがあり、天狗の団扇のような葉をつけます。山菜として人気のあるタラやコシアブラと同じウコギ科の植物で、この芽の天ぷらは、タラよりやや苦みがあり大変おいしいです。手の届く若い木には芽は数個しかなく、大きい木には、芽はたくさんありますが手が届きません。でも、これを簡単に大量に入手する方法があるのです。

落葉広葉樹が春に展開させる新芽は、前の年の夏にはもう葉の根元に用意されています。そのごくごく小さい新芽は、芽鱗と呼ばれるカバーに包まれて冬の寒さや乾燥から守られています。春になると、この芽鱗と中の小さい葉は伸びて大きく膨らみ、カバーであった芽鱗はやがて落ちてしまいます。私たちは、タラやハリギリの新芽をてんぷらにする際には、この伸びた芽鱗(植物学的には托葉といい山菜の本では、「はかま」と言われる部分)は、取り除いて葉本体の部分のみを食べます。サルたちは、なんとこの伸びた芽鱗の部分のみを食べます。大きい木に登って、ポッキっと新芽を折り、外側だけ食べ、中の本体は下へ落とします。私たちは下で待っているだけで食べごろの天ぷらのたねが、はかまの取り除かれた下処理済みの状態で入手できるわけです。1本のハリギリの木にサルが3頭も登って10分も食べ続ければスーパーの袋いっぱいの収穫。1年のうち1週間ほどの間しか楽しめない春の楽しみです。
托葉ってそんなにおいしいの?と興味がわき、ちょっとかじってみました。なんと本体よりずっと甘いのです。なるほど、と思ったとたん、猛烈な苦味が口いっぱい広がりました。サルたちの苦みに対する味覚はヒトより相当鈍感なようです。





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